スポンサーリンク

厳選!LGBT文学のおすすめ4選+おまけ – 深く考えさせられる名作を紹介

Essay

この記事に辿り着いた人たちの経緯は様々かと思います。

自分がLGBTだから。大学で扱うから。ただ興味があったから。BLコンテンツ、百合コンテンツ好きが高じて、などなど。いずれにしても、物語のもつ力は偉大ですから、考えさせられることはたくさんあります。どんな経緯でここに来たとしても、物語を楽しむことを忘れないでください。

LGBT文学は、性別やセクシュアリティに関する多様な経験を描き、読者に新たな視点や共感をもたらしてくれる大切なジャンルです。今回紹介する作品は、数は少ないですが、その一つ一つが独自の視点からLGBTQ+の世界を描いており、読者に深い感動や気づきを与えてくれる名作ばかりです。

これらの作品を通じて、多様なアイデンティティを持つ人々の人生や葛藤、そして自己受容の過程を知り、私たちの社会における多様性や包摂の重要性を考えるきっかけになるでしょう。

なおおまけにつきましては、あくまでおまけであることをご念頭に置いてお読みください。

それでは最後までぜひお楽しみください。

LGBT文学のおすすめ4選

『ナチュラル・ウーマン』 – 松浦理英子

松浦理英子の『ナチュラル・ウーマン』は、性的アイデンティティとジェンダーに対する鋭い考察を通じて、LGBT文学の中でも特に印象的な作品です。物語は、主人公の若い女性・リサが、自らの性のアイデンティティや愛についての葛藤を通じて、自己を発見していく過程を描いています。リサは、社会的に「自然」とされる女性像や性役割に疑問を抱きながら、友人や恋人との関係を通じて、自分自身と向き合っていきます。

この作品の最大の特徴は、ジェンダーの「自然さ」や「正しさ」を問い直す視点です。タイトルにもある「ナチュラル」という言葉が示すように、松浦は、社会が「自然」とみなす性別役割や恋愛の形が、いかに個人の生き方や幸福を制限しているかを浮き彫りにします。リサは、レズビアンであることに対する社会の目や、自分自身の内面に対する葛藤を抱えながら、自分の愛の形や生き方を見つけようとします。この過程で、リサが直面する社会的なプレッシャーや内面的な苦悩は、LGBTの人々が感じるアイデンティティの揺れや孤立感をリアルに描き出しています。

『ナチュラル・ウーマン』は、ただの恋愛小説にとどまらず、ジェンダーとセクシュアリティに対する社会的な規範を根底から問い直す作品です。リサの物語は、女性としての役割や同性愛者としての位置づけに苦しむすべての人々に対するメッセージであり、彼女が自分らしさを取り戻していく過程は、自己肯定と解放の物語として読むことができます。松浦の描く繊細で力強い筆致は、LGBT文学の枠を超え、普遍的な人間の尊厳や自己実現について深く考えさせられる内容となっています。


『デッドライン』 – 千葉雅也 (筆者激推し)

千葉雅也の『デッドライン』は、ゲイであること、そしてそれに伴う生きづらさや社会との摩擦をテーマに、現代におけるLGBT文学として重要な位置を占める作品です。物語の中心には、主人公がゲイである自分のアイデンティティをどう受け入れ、周囲との関係を築いていくかという葛藤が描かれています。千葉雅也の特徴的な哲学的な思索を織り交ぜながら、性の問題を理論的に、そして感情的に探求しています。

『デッドライン』というタイトルは、主人公が自身の限界、つまり「デッドライン」とどのように向き合うかを象徴しています。性的指向や欲望、そして社会が求める「ノーマル」な価値観との間で引き裂かれる主人公は、自らの限界を超えるための方法を模索します。作品の中で描かれる愛や欲望、他者との関係は、一般的な恋愛小説の枠に収まらず、性や愛がどのように人間の存在の根幹を揺るがすかを哲学的に問い直しています。

この作品が特に魅力的なのは、LGBTの問題を単なる個人的な体験や恋愛の問題として描くだけでなく、性や愛、自己という存在がいかにして社会の枠組みの中で規定され、そして超越されるのかを理論的に考察している点です。千葉雅也は、性の問題を単純化することなく、複雑で多層的な視点から描き出しています。特に、主人公が自らのセクシュアリティを受け入れる過程で直面する社会的なプレッシャーや孤独感は、現代社会におけるLGBTの人々が直面する課題をリアルに反映しています。

『デッドライン』は、千葉雅也の哲学的視点が生かされた深い作品であり、ゲイであることを通じて、性や愛の本質について考えるきっかけを与えてくれる一冊です。彼の思索的なアプローチは、LGBT文学に新しい視点をもたらし、読者にとっても新鮮で知的な刺激を提供しています。


『改良』 – 遠野遥

遠野遥の『改良』は、性的アイデンティティや欲望に対する徹底した問いかけを中心に、現代社会の中で生きる若者の孤独と自意識を鋭く描いた作品です。物語の主人公は、若くして社会的成功を収めた男性・青木であり、彼は他者との深い関係を築くことに無関心で、自己の欲望に忠実な生き方を選びます。彼の性や愛に対する態度は、一般的な社会規範とは一線を画し、社会的な期待や役割に対して反抗的です。

本作では、青木が男性との性的な関係を持ちながらも、同性愛者としてのラベルを拒否する姿が描かれています。彼の性的指向や欲望は固定的ではなく、自由で流動的です。遠野は、青木の姿を通じて、現代社会における「性的アイデンティティ」の固定観念を問い直し、性の多様性を描き出します。彼が他者との関係を深めることに抵抗しながらも、自分の欲望には正直であるという姿勢は、現代の若者が抱える孤独や自己への執着を象徴しています。

『改良』は、LGBT文学として重要なテーマを取り扱っていますが、それは単に性の問題に留まらず、現代社会における自己と他者の関係全般に対する鋭い批判でもあります。青木が社会の期待に応えず、自己の欲望に忠実であろうとする姿は、読者に「他者の期待に応えることが本当に必要なのか」という問いを投げかけます。彼の冷徹なまでの自己認識と、他者との距離感は、現代社会における個人の在り方を考えさせられる内容です。

遠野遥は、冷静で緻密な文体を用いて、主人公の内面と外界との断絶を描き出し、その中で性と欲望の意味を鋭く問い直しています。『改良』は、LGBTの問題を超え、現代における「自己」と「欲望」をテーマにした挑戦的な作品であり、読者に多くの問いを投げかける文学作品です。


『君の名前で僕を呼んで』 – アンドレ・アシマン

映画で観たよ、という人も多いのではないでしょうか。

アンドレ・アシマンの『君の名前で僕を呼んで』は、イタリアの美しい田舎を舞台に、少年エリオと大学院生オリヴァーとの短くも強烈な恋愛を描いたLGBT文学の傑作です。物語は、17歳のエリオが家に滞在するオリヴァーに惹かれ、二人が夏の間に親密な関係を築いていく様子を描いています。アシマンは、二人の間に芽生える微妙な感情の機微や、性的な緊張感を繊細に描写し、初恋のもつ不確かさや混乱をリアルに表現しています。

本作の魅力は、エリオとオリヴァーの関係が、単なる同性愛の枠を超えて、普遍的な「愛」として描かれている点です。二人の間に生まれる感情は、時に激しく、時に繊細であり、読者は彼らの恋愛を通じて、恋愛の本質が性別を超えたものであることを感じ取ります。特に、エリオが自分の欲望に戸惑いながらも、それに向き合う過程は、LGBT文学としてだけでなく、青春文学としても高く評価されています。

物語の後半、二人が互いの名前を呼び合うシーンが象徴的であり、彼らの関係が肉体的なものを超え、精神的にも深く結びついていることが示されています。この「名前の交換」は、二人が互いに自分自身を投影し、自己の一部を他者に委ねることで、より深い愛情を確認する行為となっています。アシマンは、この細やかな心理描写を通じて、愛がいかにして人間のアイデンティティや自己認識を揺るがすかを描いています。

『君の名前で僕を呼んで』は、LGBT文学として、同性愛に対する偏見を超え、愛がいかにして普遍的であるかを美しく描いた作品です。アシマンの描くイタリアの風景や文化的背景も、物語に深みを与えており、二人の関係が一夏の儚いものとして描かれる一方で、その影響がエリオの人生に長く残る様子も感動的です。この作品は、LGBT文学を超えて、恋愛の美しさと切なさを描いた普遍的なラブストーリーとして、多くの読者に共感を与えるでしょう。

おまけ

LGBTにそこまで深く関係しているわけではない、あるいはその人間的生きづらさを主軸に置いていないけれど、まあLGBTっちゃLGBTかと言える程度の作品も、一応ですが、おいておきます。こういう情報を欲しがっている人もいるかもしれませんので。ではどうぞ。

『キッチン』 – よしもとばなな

ほとんど関係ないですが、一応。

吉本ばななの『キッチン』は、死と再生、愛と孤独をテーマにした心温まる物語であり、LGBT的な要素も含んでいる点が特徴的です。主人公の桜井みかげは、両親を早くに亡くし、祖母と二人で暮らしていましたが、祖母も亡くなり、完全に一人ぼっちになってしまいます。そんな時、祖母の知り合いである田辺雄一と彼の母・エルメスが、みかげを一緒に住まないかと誘います。このエルメスという人物が実はトランスジェンダーであり、かつては雄一の父親でしたが、性別適合手術を経て母親となった人物です。

『キッチン』におけるLGBT的な要素は、エルメスの存在を通じて描かれていますが、物語全体においては自然に扱われており、特別な問題として強調されているわけではありません。エルメスはトランスジェンダーであるものの、みかげにとってその事実は驚きや戸惑いをもたらすことはなく、むしろ彼女が与える母性的な温かさや優しさが強調されています。この点において、エルメスはLGBTの存在が、社会における「異質」なものとして描かれるのではなく、人間としての本質的なつながりや温かさを持って描かれていることが際立ちます。

物語の中心的テーマは、みかげが喪失と孤独を乗り越え、再び自分を取り戻していく再生の過程です。エルメスと雄一との生活の中で、みかげは徐々に自分の居場所を見つけ、新しい家族の形を築いていきます。台所(キッチン)は彼女にとって心の拠り所であり、料理を通じて彼女の心は癒され、他者との絆を深めていきます。エルメスの存在もまた、この再生の物語の中で大きな役割を果たしており、みかげにとっては新しい家族の一員として自然に受け入れられています。

吉本ばななの筆致は、優しく繊細で、特に人間関係や心の痛みを描く力に長けています。『キッチン』は、LGBTのキャラクターを差別や偏見の対象として描くのではなく、彼らを自然な存在として物語の中に溶け込ませており、多様な家族の形や愛のあり方を肯定的に捉えています。特に、みかげとエルメスの関係は、血のつながりを超えた家族の温かさを象徴しており、読者にとっても心に残るものとなっています。

『キッチン』は、喪失や孤独に直面したときの癒しと再生を描いた作品であり、同時に多様な家族の形や性のあり方に対する寛容な視点を提示している点で、LGBT的な要素が作品全体に自然に組み込まれています。読後には温かな感情が残り、誰もが持つ傷や孤独を乗り越えるための希望を与えてくれる一冊です。

『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』

筆者が読んだことあるから、紹介しておこうかくらいの作品。あくまで百合作品。LGBTの人権問題が云々というメッセージは一切なし。こういう扱い方をする作品があることの是非はいったん置いておきましょう。個人的には触れられないものとして煙たがられるよりよっぽどよかろうと思いますが。

『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』は、百合(ガールズラブ)とSFという、異なるジャンルを融合させたユニークな作品集です。様々な作家によって紡がれる物語は、SFの未来的な設定や技術を背景に、女性同士の関係性を繊細かつ鮮やかに描いています。各作品は、SFらしい革新性や想像力豊かな世界観を土台にしながらも、テーマの中心には人間同士のつながりや感情が据えられており、感情の機微や葛藤が色濃く描かれています。

このアンソロジーの魅力は、多様なSFの設定を活かしつつも、登場人物たちの内面に焦点を当てている点にあります。宇宙や未来の技術といったSF的な要素がありながら、物語の中核には女性同士の友情や愛情、絆が描かれており、その中での葛藤や成長がしっかりと描かれています。たとえば、遠未来のディストピアを舞台に、閉ざされた社会の中で育まれる信頼関係や、人工知能が発達した未来社会での人間とロボットの関係など、SFならではの設定を用いながらも、登場人物たちの感情の交差に焦点が当てられています。

また、各作家が描くSFのビジョンが非常に多様でありながら、どの物語も人間性や絆のテーマに帰結している点が秀逸です。未来のテクノロジーや未知の世界が描かれる一方で、テーマとしては非常に普遍的な「他者との関わり」や「人間としての在り方」が描かれており、読者はSFの壮大な世界観を楽しみながらも、共感できる感情的な物語に引き込まれていきます。

特に印象的なのは、登場人物たちが複雑な状況下で自分自身や他者との関係に葛藤しながら成長していく過程です。未来社会や異星での冒険といった壮大な背景を持つ物語でありながら、そこに描かれる人間関係や感情のやり取りは、非常にリアルであり、読者はキャラクターに深く共感できます。SFという枠組みがありながらも、あくまで「人間ドラマ」が物語の核として強調されている点が、このアンソロジーの大きな魅力です。

さらに、女性同士の絆や愛情が描かれることで、物語に柔らかさや深い感情の交流が加わっています。感情の描写は繊細でありながらも力強く、SFの冷徹な世界観とのコントラストが非常に効果的です。このような感情の豊かさが、単なるSF作品とは異なる魅力を生み出しており、読者に強い印象を与えます。

『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』は、SFと人間ドラマを巧みに融合させた作品集であり、異なるジャンルのファンを満足させるだけでなく、感情豊かで深い物語を求める読者にとっても、非常に楽しめる一冊です。未来の技術や宇宙といった壮大な設定の中で、繊細な感情が交差する物語は、読後も心に残る深い余韻を与えてくれるでしょう。

『やがて君になる』 -仲谷鳰

とうとう小説ですらなくなりました。マンガです。でもこれだけで一記事書けるくらい名作です。

仲谷鳰の『やがて君になる』は、LGBTQ+テーマを扱った青春百合漫画であり、女子高生たちの感情の揺れや成長を繊細に描いた作品です。ストーリーは、人から「恋をしている」と言われても何も感じない、恋愛感情に共感できない少女、小糸侑(こいと・ゆう)が主人公。入学した高校で、生徒会の仕事を通じて生徒会副会長の七海燈子(ななみ・とうこ)と出会い、物語が進展していきます。

燈子は外見も中身も完璧な優等生ですが、彼女には誰にも見せない心の奥底に抱えた葛藤があり、侑は燈子の中に隠された孤独や脆さに触れ、次第に二人は互いに惹かれていきます。燈子は侑に「誰にも恋をしないで」と言いながら、自身は侑に恋心を抱くようになります。しかし、侑はその気持ちに応えられず、燈子の告白に戸惑いながらも彼女の期待に応えようとしないという、複雑な感情のすれ違いが続きます。

この作品の特徴は、恋愛に対して固定観念を持たない登場人物の描写です。侑が抱える恋愛感情への違和感は、いわゆる「無性愛(アセクシュアル)」の視点として読み取ることができ、百合作品の中でも一線を画す深みを持っています。燈子の「完璧でなければならない」というプレッシャーと、その裏に潜む弱さが物語の重要な軸となり、読者に彼女の内面を丁寧に探る機会を与えます。

美しいビジュアルと繊細な心理描写が魅力のこの作品は、単なる恋愛ものではなく、個人のアイデンティティや自己受容、他者との関係性を探求する作品として、多くの読者に愛されています。『やがて君になる』は、人間関係の中で自己を模索する若者たちに共感を呼び起こす百合漫画の一つです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました