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【小説】沼田真佑『影裏』ええもん読んだ!ほんで、影裏ってなんやったん

Essay

すばらしき文体哉、沼田真佑

本日ご紹介するのは、沼田真佑の『影裏』

こちらは第157回芥川賞作です。僕は昔から比較的本は読んでいるタイプだったのですが、かなり最近まで芥川賞とか直木賞がなんたるかをほとんど理解していなかったので、これを購入した当時は「ふーん芥川賞ね」なんてぼんやりした感想だけが片手にある状態だったのですが、今となっては、いやあさすがに芥川賞取れるよなあという作品です。これも出会ってよかったなと心から思える作品。

先生、ありがとう。大好きです。

愛を重めに本日もお送りしています。

やっぱり小説は文体でなんぼでしょうというのが、僕なりの小説観ではあるので、かなり好みの作品です。比喩表現とかはかなり特徴ありますし、普通なもののなかになにか普通でないものが隠されている感じがあるところが魅力だと思いますね。以下、あらすじ。

会社の出向で移り住んだ岩手の地で、
ただひとり心を許したのが、同僚の日浅だった。
ともに釣りをした日々に募る追憶と寂しさ。
いつしか疎遠になった男のもう一つの顔に、
「あの日」以後、触れることになるのだが……。

舞台は現代の岩手です。

現代を舞台にすると、都市のなかで孤独に生きるみたいな作品が多いなかで(たぶん偏見)、自然豊かな場所での人間関係と、やっぱり本質的に抱える孤独を描いた作品は、この物語の大きな特徴のひとつと言えるでしょう。

やけに淡々と進む物語

書き出しは情景描写から始まっています。

自然の多い岩手の空気感が鮮明に描かれています。

ここからどうやって物語が展開していくのかなあ、と思うところですが、結構なにもない場面が多いです。

序盤のほうは特に「まだ釣りの話してるなあ」という感じながら読んでいました。

最初に「おや」と思う展開としては、副島和哉の名が出てきたあたりでしょうか。詳しいことは実際に読んでみて確かめてほしいが、ここから主人公の人となりというか、物語が物語として成立してくる標準からの逸脱みたいなものが見えてくる。

人間関係と感情の深みが回りくどく垣間見えてくる。

それでやっぱり、もう一段階、あらすじにも書いている通り、日浅という男と疎遠になっていくことで物語のステージが上がるのだが、やはり最後まで、淡々としたペースを崩していない。あくまで日常のなかに埋もれる、非日常を掘り当てて浮き出しているのです。

純文学にはよく見られる書き方ですよね。これくらいの方が芸術性があっていいじゃないと僕は思うので(著者本人の気持ちはともかく)、僕はとっても好きな小説の展開でした。

震災と今野、日浅の関係は果たして……

やはり淡々と進んでいくだけあって、震災があったことが作中で触れられるのですが、それもどかんとインパクトのある登場ではありません。

文章のなかに、ぽろっと、落としましたよ、くらいのノリで出てくる。

作者なりに、震災についてなにか思うところがあってこの作品は出来たんだと思われるのですが、これと主人公の今野、それから日浅の関係を結ぶ、メタファーがあるといってもいいと思います。

日浅について、かなり序盤にこうした描写があります。

日浅のその、ある巨大なものの崩壊に陶酔しがちな傾向は、

いっこうに薄れる気配がなかった。

日常生活に見聞きする喪失の諸形態に、

日浅はすんなり反応してはいちいち感じ入った。

(それにしてもこの文章もいいなあ……「喪失の諸形態にすんなり反応していちいち感じ入る」どうやったらこんな素敵な言葉が出てくるのだろうか、魔法のようだ)

まだ震災には触れられていない段階ですが、これはおそらく震災となんらかの関係性があるとおもいます。これが今野とどうかかわりがあるのか、私、気になります。

そしてタイトルにもありますが、「影裏」についても謎があります。

物語の終盤の話に触れざるをえないので、詳しいことは省きますが、影裏についてほとんど詳しいことは書かれていません。これについてもまだまだ議論の余地がありそうです。

読書会なら、こういうことをみんなで話し合うこともできますよね。

読書会のリンクを貼っておきます。読書会では、自分では発見できないような感想や、考察が聞くことができて、より作品の理解を深めることができます。

一緒に、参加してみませんか?

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終わりに

沼田真佑の『影裏』

個人的には大満足な作品でした。興味のある方もない方も必ず手に取って、文芸の世界の経済を回していきましょう。

それでは。

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